インフォーメーション・サービス27

2002年度対策 経済事情に役立つ特殊講義「為替レートの変化の貿易収支への影響」


1 円高・円安による貿易収支の変化

(1) 円高のケース

 1985年のプラザ合意により、急激な円高となり、日本の貿易収支は、1980年代後半に大幅に黒字が減少した。これについては、次のように説明できる。例えば、1ドル=200円が、円高により1ドル=100円になったとしよう。円高前は、日本の200円の製品が外国に1ドルで輸出されていた。しかし、円高後は、同じ200円の日本の製品が2ドルで輸出されることになるのである。円高により、ドル表示の輸出価格が上昇するため、輸出量が減少し、輸出(額)が減少するのである。

 一方、円高前は、1ドルの外国の製品が200円で輸入されていた。しかし、円高後は1ドルの外国の製品が100円で輸入される。円高により、円表示の輸入価格が低下するため、輸入量が増加し、輸入(額)が増加するのである。

 このように、円高は、輸出を減少させ、輸入を増加させ、貿易収支の黒字を減少させるか赤字化させる。つまり、貿易収支を悪化させるのである。

  <概略>

   円高 → 輸出価格上昇、輸入価格下落 → 輸出減少、輸入増加 → 貿易収支悪化 

(2) 円安のケース

 1997〜98年の円安局面では、日本の貿易収支黒字は増加した。これについては、次のように説明できる。例えば、1ドル=100円が、円安により1ドル=200円になったとする。円安前は、100円の日本の製品が外国に1ドルで輸出されていた。しかし、円安後は同じ100円の日本の製品が、0.5ドルで輸出されることになるのである。このように、円安により、ドル表示の輸出価格が下落するため、輸出量が増加し、輸出(額)が増加するのである。

 他方、円安前は、1ドルの外国の製品が100円で輸入されていた。しかし、円安後は1ドルの外国の製品が200円で輸入される。円安により、円表示の輸入価格が上昇するため、輸入量は減少し、輸入(額)は減少するのである。

 このように、円安は、輸出を増加させ、輸入を減少させ、貿易収支の黒字を増加させる。つまり、貿易収支を改善させるのである。

  <概略>

   円安 → 輸出価格下落、輸入価格上昇 → 輸出増加、輸入減少 → 貿易収支改善

2 Jカーブ効果

 以上は、為替レートの変化の長期的かつ通常の貿易収支への効果であった。しかし、短期的には、以上の為替レートの変化の効果とは、異なったものとなる。

(1)円高のJカーブ効果

 円高により輸出価格が上昇しても、輸出の相手先は、契約が残っていたり、またもっと安い国内の売り手を見つけるのに時間がかかる。つまり、短期的には、輸出量は不変となる。一方、ドル表示の輸出価格は上昇しているため、ドル表示の輸出(額)は増加する(円表示の輸出価格は不変であるため、円表示の輸出は不変である)。

 また、円高により、円表示の輸入価格が下落しても、原材料などの場合には、短期的には技術条件が変わらないため、安くなった原材料を多く輸入する必要もない。また、外国の輸出企業もすぐには輸出を増やすのは、設備能力上無理である。そのため、短期的に、輸入量は不変である。円表示の輸入価格は下落しているため、円表示の輸入(額)は減少する(ドル表示の輸入価格は不変であるため、ドル表示の輸入は不変である)。

 このように、短期的には、円高により、ドル表示の輸出は増加し、ドル表示の輸入は不変であるため(円表示の輸出は不変であり、円表示の輸入は減少するため)、円高が貿易収支の黒字を増加させるか赤字を減少させるという、通常とは逆の減少が生じるのである。これは、1986年の円高のときに、見られた現象である。図1のようにこの状況を描くと、Jの字をひっくり返したような字となるため、この短期的効果を、Jカーブ効果という。

(2) 円安のJカーブ効果

 円安によりドル表示の輸出価格が低下しても、輸出企業は、短期的に設備能力上すぐには輸出量を増やすことはできない。ドル表示の輸出価格は低下し、輸出量は不変であるため、短期的に、ドル表示の輸出(額)は減少する(円表示の輸出価格は不変であり、円表示の輸出は不変である)。

 また、円安により、円表示の輸入価格が上昇しても、契約が残っていたり、もっと安い国内の売り手を見つけるのに時間がかかる。つまり、短期的には、輸入量は不変である。一方、円表示の輸入価格は上昇しているので、短期的に円表示の輸入(額)は増加する(ドル表示の輸入価格は不変であるため、ドル表示の輸入は不変である)。

 このように、短期的には、円安により、ドル表示の輸出は減少し、ドル表示の輸入は不変であるため(円表示の輸出は不変であり、円表示の輸入は増加する)、円安が貿易収支の黒字を減少させるか赤字を増加させるという、通常とは逆の減少が生じるのである。これは、円安下の1996年のときに、見られた現象である。図2のようにこの状況を描くと、Jの字のような図となるため、この短期的な効果を、Jカーブ効果という。

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