一日夜、東京都文京区後楽一の五の三、財団法人、善隣学生会館内の日中友好協会本部（日共系）と同会館内の親中共系留学生が館内カベ新聞問題で対立、留学生グループが会館入口をシャットアウトした。これに抗議して押しかけた日共系の青年約四百五十人とにらみあい、機動隊が出動する騒ぎがあった。紅衛兵運動の影響が日本で直接行動に現われたのははじめてである。

　当局の調べによると、同会館の三、四階に住んでいる留学生の後楽寮自治会（邱獅君委員長）は午後六時から分裂した日中友好協会（日共系）に対する抗議集会を開き、七時半ごろ代表が同会館一階の事務所に「会館内のカベ新聞を破るな」と抗議した。協会側は約十七人が事務所に立てこもり、内部にバリケードを張って抗議をはねつけた。このため留学生グループは硬化、約百人を集め、会館入口をシャットアウトし、協会職員の出入を妨害した。協会側も都内の日共系学生、青年に連絡して、約四百五十を動員した。このため警視庁は機動隊約二百人を出動させ、話し合ったがまとまらず、日共系学生らは二日午前一時二十分、共産党の松本善明代議士の説得で一応解散した。

　留学生グループは日本国内や東南アジアの華僑の子弟が多く、後楽寮自治会の話によると、会館内に「真の日中友好を妨害する日中友好協会は会館を出て行け」というカベ新聞を張っていたところ、協会事務局員にかたっぱしから破られ、二十八日もカベ新聞をめぐり会館でトラブルが発生、留学生一人がなぐられたため抗議集会を開いたという。

　これに対し日中友好協会は「親中共派学生は電話線を切ったり、事務局員を監禁状態にするなどひどい挑発行為で、民主勢力のかく乱をねらっている」と非難している。

(｢毎日新聞」昭和４２年３月２日朝刊１５面）

日中友好協会入口付近で、はげしくもみ合う留学生と日共系青年たち（午後一時四十分ごろうつす）

　中国の紅衛兵運動の波及から、東京文京区後楽一の五の三、善隣学生会館で一日夜起きた中国人留学生グループと日中友好協会（日共系）の紛争は、二日朝もつづき、警視庁は厳重に警戒している。

　同日朝七時ごろ、善隣学生会館一階の日中友好協会本部事務所に“ろう城”している事務局員と連絡をとるため、協会関係者十数人が事務所に行こうとしたところ、会館入口にいた親中共派留学生数人が「反中国分子は代々木に帰れ」バ声を浴びせて阻止、乱闘となった。留学生側の王俊英さん（一九）と日中友好協会、森下幸雄組織部長（三八）ら双方数人がケガをした。

　協会側の十数人は間もなく協会本部事務所にはいり、騒ぎは一応おさまったが、留学生は会館内の階段にすわり込んで協会事務所を封鎖し、毛沢東語録を一斉に朗読「日共は修正主義に転落した」とののしり気勢を上げれば、日共系は約六十人を近くの小石川サッカー場に集めてにらみ合った。

　警視庁は機動隊百人を待機させている。

　留学生派約百人は、午後一時四十五分、会館のトビラをしめ、内側に机、イスでバリケードを築いたが、まもなく協会事務所に“ろう城”している日共系事務局員と乱闘となり、かなりの負傷者が出た模様で、救急車が出動した。

　しかし、消防署員も会館の立ち入りを断わられおよそ四十分間立往生、やっと午後二時半、裏口からはいり負傷した協会事務局員四、五人を収容した。

　一方、協会側の応援にかけつけた民青同盟員ら六十人は「暴力行為はやめろ」とシュプレヒコールをあげ、会館周辺は緊迫した空気に包まれた。

　日共は松本善明代議士を通じ警視庁に会館内のピケを排除、事務局員の安全を守るよう要請した。

(｢毎日新聞」昭和４２年３月２日夕刊１１面）