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2003年下半期 世界経済10大トピック

2003年下半期の世界経済のトピックで、特に重要なものを10件ピックアップしました。これは、週間トピックからの抜粋です。


(1)中国、FTA戦略加速(2003/8/19) **

 中国が、アジア地域でのFTA(自由貿易協定)交渉を加速させている。農業の自由化がネックとなり、FTA交渉が滞っている日本に対し、東アジア地域での主導権を着々と握りつつある。

 中国は、6月末に香港とFTAを含む経済緊密化協定(CEPA)を結んだ。経済が停滞する香港側の要請で2001年末から協議していたものである。また、マカオともCEPAの協議に入り、台湾にも協定締結を呼びかけている。

 タイとは、10月から農産物約200品目の関税を相互撤廃する。昨年11月に締結したASEAN(東南アジア諸国連合)とのFTAを含む包括的経済協力枠組み協定の一環である。タイ以外のASEAN諸国とも関税撤廃に踏み切る予定で、FTAは具体的な進展を見せている。

 このまま進むと、中国が東アジアの経済統合の主導権を握る可能性が大きいとの見方もある。しかし、中国がFTAで東アジアをけん引する力はまだないとの見方も根強い。

 中国は市場経済を導入してから10年と日が浅く、国内で模倣品の横行や商道徳の未発達など問題を抱える。また、人民元のドル固定制に対する国際的な批判も強まっている。

FTAに関しては、週刊トピックの「経済事情―重要30用語」を参照)


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(2) 人民元、日米切り上げを要望(2003/8/27) ***

 日米の対中貿易赤字が拡大しているのを背景に、中国の人民元切り上げの議論が再燃している。スノー米財務長官は、9月1日から日中両国を訪れ、日中両国の通貨当局者と相次いで会談する。中国には、人民元切り上げを迫ると見られる。その後のAPEC財務相会議、G7(先進七か国財務相・中央銀行総裁会議)で、人民元を巡る突っ込んだ意見交換が行われる可能性が高い。

 「世界の工場」としての中国は、世界各国に輸出を拡大している。日米両国とも、2002年は、中国が第一の輸入相手国となった。一方で、日米の自動車、ハイテク企業は、労賃が安い中国に進出し、中国に部品を輸出し現地で製品化する国際分業体制を敷いており、人民元が切り上がることは必ずしも有利とはいえない面もある。


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(3)財政赤字と失業―ブッシュ弱み抱え(2003/9/11) ***

 再選を目指すブッシュ大統領にとり、不況克服は重要課題の一つである。特に、ブッシュ政権で300万人の雇用が失われたと批判される失業者増はアキレス腱である。大統領が、再選に失敗した父、ブッシュ元大統領の轍(てつ)を踏むまいと、景気回復策として頼むのが大型減税である。7月24日、大統領は今後10年間で3500億ドルの大型減税策を発表した。2001年に続く二度目の大型減税である。しかし、その景気浮揚効果が十分ではない上、歳入逼迫の要因となっている。2004会計年度の赤字見通し額は、5250億ドルであり、対GDP比でブッシュ大統領自身が課した上限5%に迫る史上最悪規模となる。

 また、共和党の理念である「小さな政府」よりも「大きな政府」に向かっていることも、財政赤字拡大の底流にある。防衛予算は急速な拡大を続け、同時テロにより巨大官庁「国土安全保安庁」が新設され、さらに思いやりのある保守主義を唱えて民主党ばりの社会保障歳出の拡大も目指している。


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(4)WTO閣僚会議決裂―交渉方式に限界(2003/9/17)***

 メキシコのカンクンで開催されていた世界貿易機関(WTO)の閣僚会合は、先進国と途上国の対立が解消しないまま決裂した。99年のシアトルの会合に続く失敗は、2004年末を合意期限とする新ラウンドの成立を困難にするだけでなく、WTOの存在意義を揺るがしかねない。特定の国・地域の間で締結する自由貿易協定(FTA)が活発な中で、WTOは大きな曲がり角を迎えている。

 新ラウンドは、交渉期間を3年と、過去のラウンドの半分以下に設定した。しかし、参加国・地域が最初のケネディ・ラウンドの47から146に増え、途上国は全体の3分の2以上になった。先進国と途上国の対立にとどまらず、先進国同士や途上国同士の利害が複雑に絡む現状では、短期間で全会一致の合意が得られるはずがないとの見方が支配的になっている。

 新ラウンドによる多国間の自由貿易体制が停滞している一方で、FTA締結が加速している。北米自由貿易協定(NAFTA)の成功の90年代後半以降、百近くのFTAが締結された。

 (WTOFTANAFTAは、いずれも週刊トピック「経済事情―重要30用語」を参照)


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(5)ラトビア、国民投票でEU加盟承認―25カ国体制が確定(2003/9/22) **

 旧ソ連から独立して12年が経つラトビアで、欧州連合(EU)加盟の国民投票が行われ、賛成67.0%で加盟が承認された。これで、新規加盟の10ヶ国すべてで国内批准手続きが終了し、25ヶ国体制のEUが、来年5月に発足することが確定した。

 EUの東方拡大により、EUの地政学的重心がドイツに移るが、親米色の強い国々の加盟は、EUの共通外交政策にも大きな影響を与えることになる。また、新規加盟国の多くは、現加盟国との経済格差が大きいだけでなく、政権が不安定でEUの運営に影を落とす可能性もある。


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(6)アメリカの4〜6月期GDP3.3%増(年率換算)(2003/9) ***

 アメリカ商務省によると、今年の4〜6月期実質GDP成長率の確報値は、年率換算で前期比3.3%増となり、0.2%上方修正された。アメリカ経済の回復傾向が改めて裏付けられた。アメリカ国内では、年後半には、年率4%を超える高成長となるとの見方が広がっている。

[アメリカの実質GDP成長率]

2000年 3.8%
2001年 0.3%
2002年 2.4%
2003年 1〜3月期 1.4%
4〜6月期 3.3%


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(7)回復遅れる欧州景気(2003/10/6) ***

 欧州景気の回復が遅れている。主力ドイツは、三・四半期連続のマイナス成長である。アメリカや日本の持ち直し傾向と対照的である。設備投資も建設投資もマイナスの伸びであり、今年の実質成長率は、ゼロ近辺がせいぜいである。一方で、企業の景況感は、5ヶ月続けて改善し、来年には回復軌道に乗るのではないかといえる。

 ドイツの問題は、雇用である。来年も、減税などを前提にしても低成長であり、今冬には失業者が500万人の大台に乗る恐れも否定できず、失業率は来年も10%程度で高止まりするものと見られる。

 欧州景気が長期低迷する理由の一つが、ユーロ高である。特に輸出依存型のドイツ経済にとり、打撃である。ユーロ高が、どこまで進むのか予想が出来ないのは、不安材料である。日本の通貨介入や中国の人民元の対ドル連動制が欧州企業の競争力低下を招いているのは、明らかである。

 また、欧州企業の高コスト構造の是正も必要である。企業を圧迫する税や社企保障の負担を下げなければならない。ドイツ産業連盟は、所得税の最高税率を30%に、社会保険料率を42%から35%に下げるように求めている。そして、日本人は、週40時間以上働くのに対し、ドイツは平均36時間である。労働慣行も変えないと成長できないとしている。


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(8)アメリカ、7〜9月期の成長率7.2%増の高い伸び(2003/10/31) ***

 アメリカの7〜9月期の実質GDP成長率が、前期比7.2%増(年率換算)と19年半ぶりの高い伸びとなり、アメリカ経済が成長軌道に乗ったとの見方が広がっている。6.6%増の大幅な個人消費の回復と11.1%増の堅調な設備投資が、景気を支えている。市場では、失業率の高止まりなどから、景気の先行きを懸念する向きもあり、早くも10〜12月期の統計に注目が集まっている。

 スノー財務長官は、2003会計年度(2002年10月〜2003年9月)の財政赤字が過去最高になったと発表した声明で、経済成長による税収増が、財政赤字を解決するという楽観的な見通しを示した。

 一方、二・四半期連続で、物価変動を示すGDPデフレーターが1%台の低い伸びにあるため、FRBはデフレ対策として政策金利を現行の年1%に据え置いた。また、9月まで、9年ぶりに、6ヶ月連続で失業率が6%台に高止まりし、雇用喪失下での景気回復は、構造的な問題として、長期化する懸念もある。


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(9)独仏、EU財政安定協定に3年続きで違反(2003/11/28) ***

  「安定協定」は、ユーロ圏12カ国の各国の財政赤字を対GDP比3%以内に抑えるというものである。景気回復を優先する独仏両国は、2004年まで3年連続でこの協定に違反するのは確実となったため、EUは24日,25日の財務相理事会で両国に対する制裁手続きについて協議した。しかし、独仏二大国の結束とイタリアなどのドイツ支持で、両国は当面、制裁も予算削減も免れることになった。この結末に、欧州中央銀行は、「深く憂慮する」と、異例の声明を出した。   「安定協定」は、96年12月のEU首脳会議で、ドイツが強力な自国通貨マルクを放棄する代償として、他の加盟国の反対を抑え、強引に合意させた経緯がある。   緊縮策をとれないドイツは、石炭産業に莫大な補助金が支給され、失業を常態化させるような手厚い失業手当が支給されている。シュレーダー政権は、こうした無駄を削り、構造改革を目指しているが、労組や野党の反対で改革は進んでいない。ドイツの混迷は、EUに暗い影を落としている。


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(10)変わる中国―「労働模範」工員・農民から企業家へ(2003/12/9) **

 社会主義中国を象徴する労働模範の顔が、市場経済化により、工員や農民から成長をリードする私営企業家へと、交代しつつある。

 21世紀に入り、労働者を搾取するものとされてきた私営企業家が、労働模範の新たな顔になりつつある。昨年、中国第二の靴メーカーの王総裁は、私営企業家として初の全国労働模範に選ばれた。昨年の共産党大会で、企業家の入党解禁方針が明記され、私営企業家の取り込みが党の発展戦略に位置付けられたことが背景にある。 一方で、旧世代の労働模範を取り巻く状況は厳しく、国有企業からリストラされたり、高齢で病気を抱えた労働模範も少なくない。党中央は、このような弱者になってしまった労働模範への生活補助を強化している。


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