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2004年上半期 世界経済10大トピック

2004年上半期の世界経済のトピックで、特に重要なものを10件ピックアップしました。これは、週間トピックからの抜粋です。


(1)経済大国に成長した中国の責任―改革開放25年(2004/1/13) ***

 中国が改革・開放をしてから25年の間、年平均9%超の成長を遂げ、今や国内総生産(GDP)は世界6位である。英仏を追い抜くのは、時間の問題である。 一方で、中国経済は、多額の不良債権を抱える金融機関、国際競争力をなくした国有企業、積極財政による巨額の財政赤字などの問題を抱えている。さらに、経済発展の裏では、所得格差、地域格差が拡大している。胡共産党指導部は、経済発展至上主義の従来の方針を見直し、調和のとれた発展を目指す方針を打ち出している。

 中国の経済発展は、海外からの直接投資に大きく依存しており、輸出入に占める外資系企業の比率は5割を超える。更なる発展のためには、周辺諸国との良好な関係が不可欠である。しかし、中国は、毎年軍事費を二桁の割合で増加させ、核やミサイルなど軍事力を増強しつづけている。求められるのは、一層の国際協調的な姿勢である。それは、地域の大国としての責任である。


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(2)ドイツ10年ぶりマイナス成長(2004/1/16) ***

 ドイツ連邦統計局によると、2003年のドイツの実質GDP成長率が前年比0.1%減になり、93年以来の10年ぶりのマイナス成長となった。ユーロ高による輸出の伸び悩みが響いたためである。しかし、年後半からは、企業部門の主要経済指標が改善するなど、景気回復の兆しも見えている。

 ドイツの成長率は、2001年が0.8%、2002年が0.2%で、3年連続景気が停滞している。しかし、景気の先行きを示す代表的な指標とされるifo経済研究所の景況感指数は、昨年12月まで8ヶ月連続で上昇している。一時ささやかれていたデフレ懸念も急速に薄らいでいる。ただ、最近の急速なユーロ高は、輸出主導のドイツの景気回復にブレーキをかけるのではないかと懸念される。


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(3)EU財政協定形がい化懸念(2004/1/24) ***

 ドイツとフランスがユーロ圏の「財政安定化・成長協定」に違反している問題をめぐり、欧州連合(EU)内の対立が激化している。両国の協定違反を事実上容認した財務相理事会の決定を不服として、執行機関である欧州委員会が、欧州司法裁判所に提訴したためである。しかし、理事会は最高決定機関であり、協定の形がい化は不可避である。

 欧州委は、昨秋、独仏両国に対し財政赤字の追加削減を求めると同時に、それが守られなければ、協定により制裁金支払いの手続きを進めるとした勧告案をまとめ、意思決定機関である財務相理事会に提出した。しかし、理事会は、昨年11月に、財政赤字を容認し、制裁手続きを停止することを決めた。欧州委は、この決定が「赤字削減に対し効果的な措置が取られた場合に、制裁手続きを停止する」という理事会規則に違反するとし、提訴に踏み切った。欧州委が提訴した背景には、大国の論理が強く反映された理事会決定を黙認すれば、EU内の規律が維持できないという判断がある。特に、ドイツは、この協定の発案者であることが、欧州委の姿勢を硬化させた。

 しかし、欧州裁判所が無効と判断しても、EUの対応を決める権限は理事会にあり、独仏が追加的な赤字削減や制裁金支払いを迫られる可能性は低い。一方、合法とされれば、欧州委の発言力は、一気に低下しかねない。


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(4)アメリカ財政赤字削減見えず(2004/1/22) ***

 ブッシュ米大統領は、20日の一般教書演説で、就任以来の大型減税がアメリカ景気の回復に果たした役割を強調し、2013年までの時限立法である同減税の恒久化を議会に求めた。 財政赤字の拡大批判に対しては、今後5年間で財政赤字を半減させると明言したが、社会保障費の自然増や不透明なイラク情勢の先行きなど、赤字増の懸念材料も多く、赤字削減の行方は不透明である。

 2001年から13年間で1兆7千億ドル(約182兆円)の大型減税に対しては、財政赤字の原因とされるなど、賛否両論である。

 昨年9月に終わった2003年度の場合、当初の財政赤字見込み額800億ドルに対し、イラク戦費の累増などで、最終的な赤字額は、過去最大の3742億ドル(約40兆円)に膨れ上がった。

 大統領が、財政赤字を5年間で半減するとしているのは、主に景気回復で税収が大幅に増えることを計算しているためである。米議会予算局の財政見通しでも、財政赤字は2004年度をピークに縮小に転じるとしている。その前提は、減税が予定通りなくなり、税収が回復することである。

 早くも関係者の間では、大統領が減税の恒久化と財政赤字の削減の両立を集中していることには、実現不可能との見方が強い。


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(5)中国経済9.1%成長、加熱の兆し(2004/2/23) ***

 2003年の中国の実質GDP成長率は、9.1%となった。内訳は、個人消費が前年比9.1%増、固定資産投資が前年比26.7%増となり、輸出とともに成長のけん引役となった。しかし、住宅や製造業では、加熱の兆しも見られる。

 過熱気味の象徴が、上海の住宅市場である。上海の新規分譲住宅の平均価格(約60万元)は、上海の一世帯あたり平均年収(約4万元)の15倍に達している。上海などの大都市の住宅ブームは、地方都市にも波及しており、急ピッチの開発による供給過剰の問題が顕在化し始めている。

 製造業でも、設備投資の過熱現象が見られる。自動車、携帯電話、鉄鋼など多くの分野で、需要増を見込んだ大規模な投資が行われている。

 このような中で、昨年の消費者物価上昇率は1.2%に留まった。インフレ圧力が見られないのは、豊富な労働力により賃金が上昇していないことや、耐久消費財などの供給過剰による価格引下げ競争が激化しているためである。

 住宅市場や設備投資の過熱状態が強まれば、起こりうる調整局面が成長の下押し圧力となる可能性がある。特に、不動産バブルがはじけた場合、不動産関連貸出が急増している国有商業銀行を中心とする金融システムにとり、既存の巨額の不良債権に加え、新たな不良債権の発生につながるリスクがある。

 今後も投資と輸出の二本柱をけん引役に、8%成長を続ける公算が大きいが、適度の金融の引締め策で景気過熱を抑制し、軟着陸を図るという微妙な舵取りが求められる。


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(6)もたつく欧州景気(2004/5/10) ***

 ユーロ圏を中心とする欧州経済の回復が、日米に比べもたついている。ドイツを初めとして消費低迷も続く。1日に25カ国体制となった欧州連合(EU)拡大は、復調の切り札になるのか。

 ユーロ経済は、出遅れ気味だが緩やかな成長が戻ってきた。電機、化学、自動車など輸出が伸びている。しかし、力強い成長に戻れる確証はいまだない。

 個人消費の低迷と並び、ユーロ高も景気に悪影響を与えている。日米に比べ、相対的に金利が高いことが一因である。為替相場は、1ユーロ=1.2ドル程度であるが、購買力でみると2割は過大評価されている。

 独仏の不振をアメリカが批判しているが、ユーロ圏の「安定・成長協定」があり、需要追加型の財政政策は許されない。最も適切な改革は、高コスト構造を改めることである。一方で、この改革への不安が、消費低迷をもたらしているともいえる。

 EUに10カ国が加わったことは、日本にとっての中国と同様に、貿易相手として大きな潜在力を秘めている。機械など資本財の需要は多く、西欧にも経済成長の恩恵をもたらすことは確かである。しかし、賃金格差は大きく、例えば、ポーランドの賃金水準はドイツの6分の1である。低賃金競争で生産拠点が中東欧に移れば、雇用が脅かされる危険があるが、現在の日本をみてもこの危険性は少ない。長期的に、EU拡大はEUの成長を促進するものといえよう。

[最近のEUの実質GDP成長率]
ユーロ圏 イギリス
2001年 1.6% 2.1%
2002年 0.9% 1.6%
2003年 0.4% 2.2%
[寸評]ユーロ圏は、近年低成長であり、8.8%(2003年)と失業率も高い。一方、イギリスは、ユーロ圏より成長率がはるかに高く、失業率も3.1%(2003年)と低い。イギリスには、ユーロ圏のような構造問題がないためである。
   

EUについては、「重要30用語」参照。ユーロ圏とは、EUのなかで、統合通貨ユーロを導入している国々の経済圏のことをいう。イギリスなど3カ国は、ユーロを導入していない。)


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(7)世界経済、力強い回復傾向―OECD閣僚理事会閉幕(2004/5/15) ***

 経済協力開発機構(OECD)の閣僚理事会は、14日閉幕し、議長総括では、世界経済が、アメリカとアジアがけん引役となり、力強い回復傾向にあると歓迎した。その上で、米英では利上げが不可避な状況を確認する一方で、日欧には金融緩和が引き続き必要であると指摘した。最近の原油高を懸念材料に上げたが、管理は可能と冷静に受け止めた。

 また、難航するWTOの新多角的貿易交渉(新ラウンド)では、投資ルールなど先進国と途上国が対立していた4つの新分野のうち、貿易円滑化のみを優先して交渉対象とする方向性が示された。


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(8)アメリカ経済復活の土台築くーレーガン元大統領逝く(2004/6/7) ***

 レーガン元大統領がアメリカ経済に残した遺産は、極めて大きい。就任時のアメリカは、不況、インフレ、高失業など、まさにどん底にあった。その裏付けとなる政策は、単純だが一貫していた。減税と軍事力強化を二枚看板に、強いアメリカ復権を目指した。成果は、退任後の90年代に冷戦終結とアメリカ経済の復活という形で現れる。

 経済の再建策として提示したレーガノミックスは、「大きな政府」の考え方を一掃した。減税と規制緩和で民間活力を刺激することが、経済を回復させる唯一の道と説き、「小さな政府」を前面に打ち出した。減税が景気を回復させ、税収増となり、財政赤字も減るというシナリオを提示して見せた。しかし、任期中は、成果より問題の方が多かった。巨額の減税は、財政赤字の膨張となり、貿易赤字の急増と合わせて「双子の赤字」と呼ばれた。

 日本も、大きな影響を受けることになる。アメリカの双子の赤字は、ドル高是正のための85年9月の「プラザ合意」へとつながる。円高が進行し、必要以上の金融緩和を迫られ、バブルの膨張と崩壊という日本経済の進路を運命づける要因にもなった。

 レーガノミックスが花開くのは、大統領の任期の終盤である。政府は介入せずに市場メカニズムを重視する経済政策は、企業の競争力を回復させた。それが、90年代のアメリカ経済の長期好況の土台となった。冷戦崩壊とアメリカ経済の繁栄は、人、モノ、カネが自由に国境を越えるグローバル化を加速させたのであった。

 アメリカ国民に愛され続けた偉大なる大統領が、世を去った。


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(9)サミット閉幕―米仏経済でも対立(2004/6/12) ***

 10日閉幕した主要国首脳会議(シーアイランド・サミット)では、経済問題でも米仏の対立が目立ち、貿易自由化やイラク債務の削減問題などでは、原則論を確認しただけに終わった。

 世界貿易機関(WTO)の農業自由化問題では、アメリカは農産物輸出補助金の撤廃を求めたが、フランスは段階的な削減を主張して譲らず、貿易声明の原案から撤廃の文字を削除させた。アメリカが、欧州の景気回復の遅れは世界経済のリスク要因であると、批判したことに対して、シラク大統領は、アメリカの双子の赤字が、最大のリスクであると応酬した。

 5月からの欧州連合(EU)拡大で、経済的影響力を強めた欧州勢が、今後も経済問題でアメリカと対峙する機会は増えると見られる。


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(10)EU憲法採択(2004/6/20) ***

 欧州連合(EU)首脳会議が、新基本条約となるEU憲法を採択した。欧州統合の基礎である諸条約を一本にまとめることで、拡大EUを効率的に運営する必要があった。  EUの発言力強化を目指すとともに、憲法には様々な機構改革が盛り込まれた。最高意思決定機関のEU首脳会議に常任議長を新設し、大統領とする。また、共通外交・安保政策を担うEU外相ポストを設けた。

 意思決定の停滞を避けるため、二重多数決方式を導入した。加盟国数の55%以上が賛成し、かつ賛成国の人口の和がEU総人口の65%以上になった場合に、決定できる仕組みになる。新方式は、外交、国防、税制など一部を除いた広範な分野に適用される。各国の拒否権行使を限定し、政策決定の円滑化を促そうというものである。

 憲法の発効には、全加盟国が批准する必要がある。最大の難関はイギリスである。国民の多数がEU憲法に否定的な姿勢を示しているのに、ブレア首相は、批准のために国民投票を実施することを決めている。

 加盟各国の指導者は、国民が抱く不信感を取り除くことを真剣に考えざるを得ない時期を迎えている。有効な手を打てなければ、反欧州の機運は、イギリスなど一部の国の問題ではなくなる。

EUについては、「重要30用語」参照)


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