インフォーメーション・サービス68: FTAとWTO―経済連携の進展


目 次
FTAとWTO―経済連携の進展
1.FTAの90年代以降の顕著な増加
2.WTOの拡大と交渉の停滞
3.FTAによる自由化の進展
4.貿易自由化の経済効果
5.今後の取組み
参考文献

FTAとWTO―経済連携の進展

 日本の貿易の自由化は、GATT・WTO(関税および貿易に関する一般協定・世界貿易機関)により推進されてきた。しかし、近年、特定の国・地域において、FTA(自由貿易協定)を設定する活発な動きが見られる。日本は、2002年にシンガポールと、2004年にメキシコとFTAを締結した。アジア各国やASEAN(東南アジア諸国連合)全体との経済連携に関する協議に積極的に取り組んでいる。

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1.FTAの90年代以降の顕著な増加

 FTAは、地域的な貿易自由化を目指すものであり、加盟国間での関税撤廃を基本とする協定である。そのため、WTO(世界貿易機関)規定とその解釈においても、次の事項が条件とされている。

 @ 加盟国は、実質的にすべての貿易の自由化を行うこと

 A 自由化は、10年以内に行うこと

 B 締結前後で、関税等がより高度または制限的なものであってはならない

 すなわち、WTOは、世界の貿易の無差別の自由化を原則とするものであるが、FTAについても高度な自由化を推進するものであるならば、世界貿易の自由化につながるものとして、例外的に認めている。

 このようなFTAは、90年代以降著しく増加している。WTOに通報されているFTAなどの経済連携は150件であるが、90年代以降に締結されたものが大半である。欧米先進国によるNAFTA(北米自由協定)やEU(欧州連合)により、FTAの取組みは加速したが、最近は途上国の関係したものや地域横断的なものも増加している。

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2.WTOの拡大と交渉の停滞

 GATTを引き継ぎ、貿易の無差別原則(最恵国待遇・内国民待遇)(1)などを基本ルールとするWTOの交渉には、近年、若干の停滞が見られる。その一例として、ドーハラウンドの交渉促進を狙ったメキシコのカンクンでのWTO閣僚会議(2003年9月)の決裂が挙げられる。主要交渉分野の合意が難しくなり、閣僚宣言の採択が見送りとなってしまったのである。

 このように、交渉が進みにくくなった背景には、93年のウルグアイラウンド妥結以降において、次のような変化が生じていることがある。

 第一に、加盟国数の拡大である。GATT体制下のケネディラウンド(1964〜67年)では、参加国数が62カ国であったが、2001年以降のドーハラウンドでは、147カ国・地域へと大きく増加している。特に、途上国の増加が中心であった。その結果、参加国の利害が一致しにくくなり、交渉の合意達成が容易ではなくなったのである。

 第二に、自由化対象の拡大である。世界経済の発展により、財の貿易だけでなく、サービス貿易や投資に関する自由化についても、交渉対象となってきた。また、これまで対象外とされてきた農業分野も、ウルグアイラウンドで農業合意が行われ、交渉の対象となってきた。さらに、競争政策や知的財産保護などの国内措置も対象に加わるなど、多角的自由貿易体制におけるルール作りが進めらている。このように、交渉分野が広くなっていることも、交渉を進みにくくさせている。

 それゆえ、WTOが貿易を一層推進していくためには、このような要因を考慮して対応していかなければならない。

注(1)最恵国待遇とは、すべての加盟国に平等な待遇を与えることである。そして、内国民待遇とは、自国企業より不利に扱ってはならないことである。

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3.FTAによる自由化の進展

 90年代後半に、FTAが急増している要因は、次のものが挙げられる。

 @ WTOの迅速な合意形成が困難である。

 A 利益を共有する国同士が、自由化の利益を先取りする動きが生じている。

 B FTAを、国際政治の戦略の一環として、推進しようとする思惑がある。

 最近のFTAの新しい流れとして、関税の撤廃などの伝統的な貿易自由化だけでなく、投資、競争政策、知的財産、政府調達、人の移動の円滑化、電子商取引、環境、労働関連制度の調和等にまで、協定の対象が拡大している。

 このように、連携を深め、新分野のルールを二国間で協定することは、次のようなメリットがある。

 @ 域内での幅広い経済活動の自由化と円滑化の促進

 A 各分野の制度構築のノウハウを蓄積し、多角的交渉の場で利用できる。

 しかし、FTAが手放しでよいものではなく、最大のポイントはWTOの理念が維持できるかどうかである。すなわち、多角的自由化の維持・強化につながるかどうかである。FTAを推進するには、これに十分配慮することが重要である。

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4.貿易自由化の経済効果

 日本の貿易構造を見ると、輸出のアジア向けシェアは、90年に約3割であったが、2003年には4割を超えている。そのため、日本は、東アジア諸国とのFTAの交渉を積極的に進めている。また、アジア諸国の関税率は、先進諸国と比べ高水準であり、関税撤廃のメリットはアジア諸国と日本の双方にとり大きい。そして、アジア諸国にとり、日本からの技術移転などにより、日本との自由化のメリットも大きいといえる。

 理論的に、FTAがもたらすメリットは、静態効果と動態効果がある。プラスの静態効果としては、関税撤廃により締結国間の貿易を創出する効果がある。つまり、輸入国の消費者は、今までなかった安価な輸入品を購入する機会を得ることが出来る。また、比較優位の原理により、双方の国内の高生産性部門への経済活動のシフトが行われよう。

 次に、FTAが、生産性上昇や資本蓄積を通じ、国内産業やマクロ経済に影響を与える動態的な効果も大きいといえる。

 第一に、規模の経済効果である。域内の貿易・投資障壁が撤廃され、市場が統合されるため、規模の経済が実現し、生産性が上昇する効果である。IT関連生産財などは、固定費用が大きく、この効果が大きい。

 第二に、競争促進・技術伝播による生産性上昇効果である。海外経営者や技術者の自国流入などにより、競争が促進され、進んだ経営ノウハウや技術が自国に伝わることによる生産性向上効果が考えられる。

 第三に、国内制度改革の効果である。FTA締結の交渉や締結後の協議を通じ、加盟国間で有効な政策や規制などが共有または移転され、貿易・投資促進的な制度となることが期待される。

 そして、このような諸効果により、国内投資や対内直接投資が増加し、当該国の長期的成長率にプラスの効果を与えるものと考えられる。

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5.今後の取組み

 このように、東アジア諸国との経済連携からは、多様な経済効果を引き出すことが出来、WTOの補完・推進という観点から、FTAの取組みを行うべきである。

 そして、地域間での貿易・投資を促進させる取組みとして、FTAと並び、租税条約を改正する動きがある。

 日米租税条約が、投資所得への限度税率の軽減と租税回避行為を防止する、新しい租税条約の基本方針の下、約30年ぶりに改正され、2004年3月に批准・発効された。新条約の下では、一般的に投資先国での課税を大幅に軽減することにしており、二重課税のリスクが、かなり軽減されることになる。このような措置により、日米両国間での貿易や投資が今まで以上に活発化することが期待できる。

 一方、日本と東アジアとの経済関係は、緊密化している。そのため、日米租税条約のように、東アジア諸国との租税条約を改正することは、FTAの推進と共に、貿易・投資を一層活性化するために必要である。それは、東アジアの成長にも寄与するものといえる。

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参考文献:

内閣府『経済財政白書』平成16年版 第3章第3節

当ホームページ「公務員試験情報サービス」の2001年7月25日版「世界経済史

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